近年、新しい農業ビジネスモデルとして「6次産業化」が注目されています。
この「6次産業化」とは、1次産業である生産、2次産業の加工、3次産業の販売を1つに統合し、連携させて新しい価値を創り出す産業のモデルです。本稿では、新しい農業の実態や魅力をまとめ、高校生や大学生に将来の選択肢として考えてもらうことを目的とします。
農業の6次化とは?具体例をもとに解説
農業の6次産業化とは、農業に製造・加工と流通・販売を組み合わせたビジネスモデルです。これにより、農家は収益源を増やし、安定した収入を得られます。
具体例として
1.ワイナリーと観光施設
ブドウ農家がワインを作り、観光客向けの施設を開設。ワインの試飲や購入、地元食材を使ったレストランを運営。
2.農産物の加工品販売
地元の果物を使ってジャムやジュースを作り、直売所やオンラインで販売。収益が安定します。
3.農業体験ツアー
農場で田植えや収穫体験を提供し、収穫物を使った料理教室を開催。新たな収益源になります。
これにより、農業の価値を高め、地域経済が活性化します。
6次産業化を行う目的
農林水産省の6次産業化を行う理念として以下の8つが挙げられています。
- 生産者と消費者との結びつきの強化
- 地域の農林漁業及び関連事業の復興による地域活性化
- 消費者の豊かな食生活の実現
- 食育との一体的な推進
- 都市と農山漁村の共生・対流との一体的な推進
- 食料自給率の向上への寄与
- 環境への負荷の低減への寄与
- 社会的気運の醸成及び地域における主体的な取組を促進すること
農林漁業等の復興などを図るとともに、食料自給率の向上にも貢献することを目的としています。
6次産業化のメリットとデメリット
6次産業化によって生産者や地域にもたらされる3つの大きなメリットと、事業を妨げる要因になりうるデメリットについてそれぞれまとめます。
メリット
・7割以上の農家が給料が増えたと実感
農業の新ビジネスモデル、6次産業化をどうみるか一日本政策金融公庫(日本公庫)が選定した農業者を対象としたアンケートおよび面談調査で、回答者の7割強は、従来の農業より給料が増えたことを実感し、事業規模の拡大につなげていく考えでいることが明らかになっています。
出典:日本政策金融公庫「6次産業化で農業経営の7割強が所得向上を実感、今後の事業拡大に意欲課題はブランド化や人材確保」
・自分のブランドを持てる
他生産者と商品の差別化が可能となり、その企業や商品に対する理解が深まるため、魅力を感じてもらいやすくなります。また、生産者の「こだわり」を付加価値として、販売価格に転嫁することができるため、魅力的な販売方法といえます。
・地域活性化に繋がる
地域の農業を活性化することにより、耕作放棄地の解消など農地の保全、自然環境を守れるとともに、農耕文化と密接につながっている伝統文化を掘り起こし、地域風土を守れます。また、地域の特産品を売る直売所や、農家民宿や農業体験や心のツーリズムなど、都会との交流を図ることで地域の活性化が図れます。
デメリット
・費用がかかる
加工場や店舗、機械などの設備を整えるための資本金が必要になります。
・加工や販売などの専門知識も必要
農業生産の専門性とは異なる範囲で、食品加工・製造・衛生、流通・販売、接客・サービス、さらに消費者に広げるための宣伝・デザイン・マーケティングなどの知識が必要となります。
・厳しい衛生管理が必要となる
2021年6月1日より、食品の製造・加工、調理、販売など食品を扱うすべての事業者に対して、衛生管理の国際的な手法であるHACCP(ハサップ)導入が義務化されました。
そのため、一般事業者はHACCPにもとづく衛生管理、小規模事業者はHACCPに沿った衛生管理をする必要があります。
農業を職業にするという選択肢もあり
農業で6次産業化を図る上で、生産以外の加工や販売といった専門知識や費用が必要となります。学生のなかには、収入面での不安がある方も多いのではないでしょうか。
ですが農業で6次産業化を図ると、専門家のサポートや資金面で補助を受けることができます。
国の6次産業化支援がある
農業経営の6次産業化を図る農業法人や個人農家が、加工や流通・販売などについての新たな取り組みを行う場合に必要となる機械・施設などの整備を支援します。
食料産業・6次産業化交付金
- 新商品開発や販路開拓などに対する補助金
- 新たな加工や販売などへ取り組む場合に必要な施設設備に対する補助金
6次産業化プランナーの派遣
6次産業化に取り組む農林漁業者などに対して、新商品の販路開拓や加工技術の習得などに関するアドバイスをしてもらえます。
6次産業化で農業をビジネスに
6次産業とは、第1次産業である生産から第2次産業である加工、第3次産業である販売まですべて自分の範囲で行う産業です。農家自身で販売価格を自由に設定でき、直接販売において消費者から生の声が聞けるなどやりがいを感じられる職業でもあります。
現在、農業の担い手は少子高齢化や若者不足などにより、減少しつつあります。だからこそライバルが少なく、新しい農業やサービスなどを開拓できるのではないでしょうか。
今後、より若い世代が6次産業という新しい農業への関わり方を理解し、農業の担い手を増やすことが社会に求められています。
6次産業化がこれからの農業の未来をつくる
農業の6次産業化は、農業の可能性を広げ、地域経済を活性化するための重要な取り組みです。そのために今、農業の担い手は必要とされています。
これからの新しい農業の未来をつくる者として、就農を考えてみてはいかがでしょうか。
参考文献